BLOG | OFFICE OF THE CTO

DXを実現するには、エンタープライズ アーキテクチャの進化が必須です

Tabitha R. R. Powell サムネール
Tabitha R. R. Powell
Published August 31, 2022

 

イノベーションの実現に向け、常に前進していくためには、基本的なアーキテクチャ、つまり指針となるフレームワークと標準をモダナイズする必要があるのは珍しいことではありません。

望遠鏡を例にとってみましょう。光学と光の理論は脇に置いて、望遠鏡の構造的な枠組み(アーキテクチャ フレームワーク)を前進させた機能に着目します。人々は「遠くのものを近くにあるように」見たいと考えました(AIP)。彼らは当時の技術で、光学レンズと円筒形の管を持つ枠組みを作りました。今から400年以上前のことです。

初期の望遠鏡は、人が物理的に覗けるものに限られていましたが、科学者たちは、電波で画像を送信し、地球の大気圏外に物体を打ち上げることができる新技術の登場により、構造的な枠組みを更新すべきだということに気付きました。これがハッブル望遠鏡の開発につながります。依然としてレンズと円筒形の管は必要でしたが、この枠組みでは物理的に手の届くところにある必要はなく、望遠鏡を移動して遠くから操作できるようにすることで、さらなるイノベーションが可能になりました。

一方、今日のエンタープライズ アーキテクチャはモダナイズされていません。それはまるで、望遠鏡の初期の枠組みのまま進めているようなものです。この重要な進化を避けることで、組織は今後さらに多くの課題を抱えることになります。進化を避ける理由は、3階建ての家を支えている土台を変更するのは、一般的に難しいからです(比喩を混ぜてはいけませんね)。ビジネスで進められているデジタル トランスフォーメーションの取り組みは、イノベーションの連続でもあります。行き止まりにたどり着き、後戻りを余儀なくされることを望む人はいませんが、エンタープライズ アーキテクチャをモダナイズしない場合、デジタル ビジネスではそれが予想されます。

時代遅れのフレームワークが、イノベーションの障壁となる

現在のエンタープライズ アーキテクチャ(EA)は1980年代に開発されたもので、その後も開発が繰り返されていますが、広く採用されているEAは、確立された当時と同じアーキテクチャ基盤を依然として利用しています。例えば、1995年に最初のバージョンが公開されたThe Open Group Architecture Framework(TOGAF)を考えてみましょう。その基盤は今も変わらず、4つのアーキテクチャ領域(ビジネス、アプリケーション、データ、テクノロジ)で構成されています。

この基盤はインターネットが存在する以前に築かれたものであり、実はこれが問題の一端を担っています。今日、テクノロジと言えば、私たちの日常生活に深く根付いている世界規模のつながりを意味することも珍しくありません。TOGAFは、インターネットと新しい機能をそのアーキテクチャに統合するなど、バージョンアップすることで今日までビジネスを支えてきましたが、今日の可能性であるデジタル ビジネスに特化して構築されたものではありません。何が可能かを理解することで、エンタープライズ アーキテクチャをモダナイズする必要性が高まるのです。

モビリティのためのモダナイズ

テクノロジの進歩が新たな可能性を生み出していく中、エンタープライズ アーキテクチャは、継続的なイノベーションを維持するために、新しい制約(またはその欠如)に適応する必要があります。Wi-Fiや5Gなどの進歩が状況を変えました。コンピュータ アプリケーションはデータ センタから離れ、ユーザーは固定されず、動けるようになりました。こうした進歩を踏まえて意図的に設計されたモダン アーキテクチャ フレームワークを求める声が高まっています。モダナイズされたエンタープライズ アーキテクチャがなければ、イノベーションは停滞し、企業が真にデジタル空間に参入するために必要なトランスフォーメーションは妨げられます。

可能性を守る

2022年、米国とその協力国は新しい望遠鏡であるジェームズ ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を完成させ、宇宙に打ち上げました。これはモダナイズされたアーキテクチャを使用して設計されたものです。可視光だけでなく赤外光を検出して「見る」能力、100万マイル以上離れた場所から画像を地球に送信する能力など、科学者らは何が可能かについての理解を改め、望遠鏡の機能と能力をさらに高めることができると考えたのです。新たな可能性が生まれると新たな課題が生じ、アーキテクチャ フレームワークもまた見直されました。

ジェームズ ウェッブ宇宙望遠鏡は依然としてレンズを使用し、入射経路を通して光を集める必要がありますが、入射光を集光する円筒形の管は必要ありません。より広い赤外線領域の光を集めるという新しい目的のためにアーキテクチャが進化しました。この新しい目的は、独自の課題も伴いました。絶対零度以上のものはすべて赤外光として記録されるため、太陽などの熱源からの干渉を軽減することが不可欠だったのです。その結果、サンシールド、宇宙船バス、光学望遠鏡要素(OTE)、統合科学機器モジュール(ISIM)を含む、進化したニーズに対応するモダナイズされたアーキテクチャ フレームワークが生まれました。

NASAのJWST設計要素は、アーキテクチャ フレームワークの更新によって実現されたイノベーションを示しています

図1 ジェームズ ウェッブ宇宙望遠鏡(NASA

同様に、モダナイズされたEAは、インターネットの確立以降に組織が利用できるようになった新しい機能のサポートに特化したものでなければなりませんが、新たな課題にも対処できなければなりません。例えば、モビリティはセキュリティを脅かし、ユビキタス アクセスと接続によりユーザーとリソースの需要は増大しています。これらは、従来のアーキテクチャ領域がデジタル ビジネスへの道筋にもたらした課題の一部にすぎず、セキュリティ、自動化、デジタル サービスなど、その課題を取り除くためには新しい領域や概念がフレームワークに必要であることを示しています。

望遠鏡の進化とモダナイゼーションのように、30年前と比較して、今日のテクノロジの能力は増大しています。ハードウェアはより小さくなり、通信言語は合理化され、一般的に科学の進歩はより多くのイノベーションをもたらしています。そしてビジネスにおいて、これは新しい方法、つまりデジタルで顧客とつながることができることを意味します。しかし、その基盤となるエンタープライズ アーキテクチャは、現在何が可能かを理解した上で目的を持って設計される必要があります。今日の天文学研究を、手に持てるような道具に制限しようとは思わないでしょう。では、なぜビジネスを、インターネットやモバイル コンピューティング、サイバーセキュリティが生まれる以前に開発されたアーキテクチャ フレームワークに制限しようとするのですか?

デジタル ビジネスに対応するためのアーキテクチャのモダナイズ方法については、O'Reillyの新書『デジタル ビジネスのためのエンタープライズ アーキテクチャ』のLori MacVittie氏による最初の章「形は機能に従う」をご覧ください。