皆さんこんにちは。毎年お馴染みとなっている弊社F5のユーザ動向調査レポートは今年、その名も新たにアプリケーション戦略レポートと生まれ変わりました。
業務アプリケーションの立ち位置が変わりつつあるのが顕著になってきた昨今、企業のIT戦略に沿う形で今回のこの名前を変更することとなりましたが、主な調査トピックは変わりません。
その一方、今回はご協力いただく回答者様の属性をIT情報システム部門責任者のみに絞り込み、「アプリケーションとその基盤技術の戦略」に特化した回答を集計するべく取り組んだ点が従来と異なる点になります。
もう一点、皆様ご承知の通り、今回のレポートはコロナ禍になり初めての集計になります。こちらの渋谷の夜景に映える広告、「まいったな、2020」も全人類の気持ちを代弁している、と一部で話題ですが、新常態を反映した結果で皆様のお客に立てれば幸いです。
そのようなコロナ禍の中、お陰様で今年もたくさんの皆様に調査のご協力を頂き、多くのデータやインサイトを取りまとめることができました。すべての項目を1つのブログで紹介する事は難しいので、詳細はレポートの日本語翻訳版(フルバージョン)をこちらよりダウンロードし、ご一読ください。 このブログでは特にデータの集計の結果として重要な項目・データと考察される部分を解説したいと思います。
なお、大前提として日本のデジタル革新などのトレンドの進捗が世界平均と比べると遅れていると言う点は過去の当該レポートや総務省のDXレポート2(2020年末、年の瀬にひっそりと発行)でも既に指摘され、ほぼ共通認識になっているかと思います。それを前提にすると、今年の当レポートでは複数の点で日本の回答結果が世界平均のそれと比べて大きな格差がない、という興味深い発見があります。
それでは順を追って見ていきましょう!
タイトルに結論を書いてしまいましたが、まず何よりも重要な今年の話題はEdgeネットワーク・Edgeコンピューティングの隆盛と言う点につきます。
業界でも感じていらっしゃる方々も多いと思われますが、ここ1~ 2年の間にEdgeネットワークと言う概念が非常に注目を浴び始めております。実際、北米の主だった調査会社のIT業界2021年見通し(プレディクション)を見ても各社さんこのような記事やあれもこれもとにかくEdgeコンピューティングやEdgeネットワークが2021年百花繚乱、と言わんばかりの状態です。一言でこのEdgeネットワークを定義すると、パブリッククラウドやデータセンタに一極集中していたアプリケーションの演算処理を分散させ、複数のインフラ演算処理拠点を構築し、処理をする、と言う考え方になるかと思います。
当然そのメリットとしては、よりエンドポイント(ユーザ端末やIoT機器など)に近い場所で一定のコンピューティング処理を実行し、遅延の改善やパフォーマンスの向上に繋げる事が挙げられます。
まず図1では、デジタル革新がアプリケーション基盤に与えている影響を4つの項目の選択肢より回答頂いています。過去の傾向と異なるのは、アジャイル開発の導入・高頻度のアプリケーション・リリースサイクルの項目で日本が世界平均を上回る点です。
ただし、アジャイル開発を導入しているとはいえ、アプリケーションのモダナイゼーションは従来どおり低く、同様にインフラ自動化についても低い数値となりました。一年でこれら全てが飛躍的に変わる展開はあまり現実的ではない気もしますし、少しずつ開発の手法が現場で変わり始めているものの、全体のモダナイズが急激に進んだとまでは言えないように見受けられます。ただ、開発手法に変化が生じているのは見逃せない、大きな進展かと思います。
次の注目ポイントとして、アプリケーション基盤技術(いわゆるL4-L7におけるトラフィック配信やセキュリティ技術等)がどのような環境においてデプロイされているか、オンプレ・データセンタやパブリッククラウドなどの5項目より選んでいただきました。
ここでも興味深いのが、パブリッククラウド向けのデプロイが世界平均よりも上回っている点です。これは過去には見られなかった傾向で、考えられる可能性としては2点あります。
1つ目は今年実は回答者の属性を絞り込んだという従来と違った前提となるデータであり、回答の傾向が現場のIT情報システム部門寄り添った形である点です。
もう1つは、やはりコロナ禍による状況の変化です。実際、Microsoft社米国CEOのSatya Nadella氏が「既に、2年分のデジタル変革がわずか2カ月で成し遂げられている」とコメントしたのは有名な話です。日本でも緊急事態宣言を機に一気にクラウド利用が進み、求められる可用性やセキュリティ技術の状況が変わったのは明らかです。
それらを踏まえて、Edge基盤の具体的なユースケースについての回答もご紹介します。一般的に考えられるものを選択式で5種類から回答頂きました。
結果はご覧の通り、全体の傾向としては世界平均と共通点が多いものの、興味深いことにIoTのみ日本の回答比率は高くなっています。
実はこれには更に興味深い点があります。筆者が担当しているアジア太平洋地域では、中国・台湾・韓国といった地域で同様の傾向があったのです。鋭い読者の皆様ならお気づきかも知れませんが、これらの国の共通点は製造業が強い点です。予想できるのは、製品としてIoT関連の装置に関わる回答、または製造業の自社工場など施設におけるIoT活用などです。FA(ファクトリー・オートメーション)の一環や、監視ソリューションの一部など、親和性の高いものが幾つも思い浮かぶかと思います。
こういったリアルタイム性が求められる現場でEdgeを活用する、などのユースケースは日本でも活用度合いが高いと言えるのかも知れません。
さて最後の項目ですが、APIゲートウェイの使用率とAPIセキュリティの導入率の比較になります。
ご存知の通りAPIの活用はデジタル革新を進める中でエコシステム構築のためにほぼ必須と言って良いアプローチになります。自社のみでデジタル化をどんどん進める事は現実的に稀であると考えられており、例えば新興ベンダーやパートナー・協力会社とデータ共有をしながら新しいデジタルへの取り組みを進める場面は多いと言われています。
その際に、APIを公開ネットワークであるインターネット経由で社外(パートナー相手)と繋げる場面は必ず出てきます。その公開APIを通して流れるトラフィックの処理をどのように管理し守るか、という点で非常に面白いデータがありました。
まずAPIゲートウェイの導入率ですが、ここは世界平均と日本で拮抗していると言えます。しかし、興味深いのがこのAPIのトラフィック管理に対してセキュリティの項目をみると、日本はその落差が世界平均と比べて大きいという特徴があります。実は他の地域でも多かれ少なかれ同じ傾向があるので、ある意味これは世界共通の課題なのですが、日本を含む一部の国では格差が大きく、一層重要な項目となっています。
これが意味することは、APIを処理するところまではしっかりとデプロイが進んでいるものの、セキュリティを担保するところまでは、まだ手が回っていない…、そんな日本のユーザ企業様の現場が予想されます。勿論、デジタル革新はアジャイルに、トライアンドエラーで進めていく文化がポイントになりますので、素早くこういった懸念点を潰していく事ができる土壌はある筈です。ただ、それでも公開APIが外部脅威に晒されるリスクは適正に検証して、早い段階で対応策、解決策を施すのが望ましいのは言うまでもありません。
当ブログでは、調査レポートから見えてきた、「アプリケーションのデジタル革新→モダナイゼーション→APIを活用したオープンな取り組み、そしてそのアプリケーション基盤を分散化し一極集中のリスク低減」というトレンド群が全て1つの線でつながっている点が興味深い点です。大袈裟かもしれませんが、故スティーブ・ジョブズの言葉を借りるとまさに「Connecting the dots」と言えます。
重要なのは、すべては経営戦略の中でデジタルの活用が定義され、それを実践する段階でこれらの点が線となって結ばれる、というところです。
「売上を拡大したいからデジタル化しよう」ではなく、「会社の存在理由に立ち返ってビジョンを目指す時にデジタル活用が必須であり、そのためのアプリケーション、そしてそれを支える基盤を構築しよう」となったとき、きっと自然と多くの企業様にとってモダナイズ・Edgeの活用などの選択肢が現実味を帯びてくるかと思います。その際に、弊社のアプリケーション戦略レポートとその考察が皆様のデジタル戦略にご活用いただければ幸いです。
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