10Gbps のインターフェイスを備え将来のサービス展開を視野に入れた高い配信性能
ブレード追加により処理能力を拡張可能なシャーシ型構造でスモールスタートが可能
仮想インスタンスで他サービスの収容も可能なため最大限の投資効果を期待
成長著しいスマートフォンユーザに向けて安心してサービスできる配信性能の確保
将来の拡張性を確保しつつスモールスタート可能なシステムの構築
KDDI株式会社の携帯電話ブランドauでは、スマートフォンユーザに向けてau Cloudの提供を開始した。 他社との差別化が難しいスマートフォン戦略の中心となるサービスで、毎月定額で使える「auスマートパス」に加入すればデータバックアップなどの機能も利用可能。24時間365日停止せず、しかもユーザ負担を抑えるためイニシャルコストを抑えながら短期間でスタートしなければならないという厳しい条件の中でシステムは構築された。 ネットワークの中核を支えるのは、F5ネットワークスのアプリケーションデリバリ製品、VIPRIONだ。
スマートフォン普及に合わせてスピーディに拡張できるシステムが理想でした
フィーチャーフォンと呼ばれる従来の携帯電話では、キャリアのサービスと端末機能が密接に結びついていたため、携帯電話キャリアはそのサービス内容で他の携帯電話キャリアとの差別化を図ってきた。しかし急速に進むスマートフォンの普及が、こうした状況を大きく変化させることになったとKDDI株式会社 サービス企画本部の前原 剛氏は言う。
「OSや機能が共通化されたスマートフォンでは、端末の機能と密接に結びついたサービスの提供は簡単ではありません。そうした状況の中でどのようにキャリア独自のサービスを展開していくかが、大きな課題です」
スマートフォンに必要な機能やサービスを携帯電話キャリアとしてどのようにサポートしていくか、その答えの一つとしてKDDIが提示したのがauスマートパスだ。auスマートパスは、スマートフォンを利用していく上で必要なセキュリティ、写真データのバックアップ(au Cloud)、定番アプリケーションをパッケージ化して定額料金で提供するサービスだ。サービス内容をじっくり煮詰め、インフラ構築へとステップは進んだ。
「インフラ構築の段階で課題となったのが、サービス提供に耐えられるシステムをいかに低コストで、なおかつ短期間で用意できるかということでした。しかも普及速度を把握しづらいスマートフォン向けのサービスに利用するので、普及に合わせてスピーディに拡張できるシステムが理想です」
KDDI株式会社 サービス企画本部の乙吉泰宏氏は当時を振り返り、インフラに求められた要件をそう語った。
KDDIでは国内事業の成長戦略として、「マルチネットワーク」「マルチデバイス」「マルチユース」の3つの頭文字からなる「3M戦略」を進めており、au Cloudもその例外ではないとKDDI株式会社 サービス企画本部の今村 一晃氏は言う。
「au Cloud は3G網だけを対象としているわけではなく、無線通信のWiMAX 経由でのアクセスや、ブロードバンドでつながれたPCからの利用も視野に入れたサービスです。当然、それらのアクセスに耐えるインフラでなければなりません」
しかし将来の最大負荷を見越してインフラを構築すれば、初期の機器コストだけで膨大なものとる。求められたのは、将来的に拡張が容易であり、なおかつスモールスタートが可能なネットワーク製品だったとKDDI株式会社 サービス企画本部の杉田 洋介氏は語る。
「その期待に応えてくれたのが、F5ネットワークスのVIPRIONでした。サービスの展開に応じて臨機応変な拡張が可能でありながら、スモールスタートが可能です」
KDDIが選んだVIPRION 2400は最大4枚までブレードを搭載でき、160Gbpsの処理能力にまで拡張可能。そのポテンシャルを持ちながら、必要最低限の規模でイニシャルコストを抑えたスモールスタートが可能だ。スマートフォンユーザの増加や他のクラウドサービスの提供など、ビジネス要件に合わせてネットワーク側の能力を迅速に拡大できる訳だ。
コストパフォーマンスが高くイニシャルコストを抑えて導入でき、しかも将来のアクセス増加にも対応できる拡張性を持つことが、VIPRION選定の決め手となったが、KDDIの他のサービスでF5製品を使ってきた実績もあり信頼性について申し分なかった上、社内にF5製品になじんだエンジニアも多かったことも後押しとなった。
iRulesの活用により、サーバメンテナンスの度にネットワーク管理部門に設定変更を依頼する必要がなくなり、メンテナンスの自由度を確保できました
サービス展開の早い携帯電話業界の要請に応え、VIPRION 2400を含むシステムは約2カ月で構築された。ネットワンシステムズが設計・構築を担当し、テクニカルセンターで綿密な事前検証を行なったこともあり、サービス環境への導入はスムーズに進んだ。導入後もトラブルはなく、サービスは順調にユーザに浸透している。
10Gbpsの高速インターフェイスを持つシャーシにブレードを追加して処理能力を拡張できるVIPRIONの拡張性について、ロードバランシング、SSL処理能力の両面で評価する。
「ユーザの個人情報を預かるau Cloudは、サイト全体が2048bit鍵を使うSSLで暗号化されており、これらの暗号化、復号化処理もVIPRIONに任せています。SSL処理能力もライセンス追加で拡張できるので、そのときどきに必要な能力だけにコストを集中できるのが助かりますね」
仮想化が進みサーバ管理が高度化し、KDDIではネットワークとサーバは別部門で管理されている。そこで活用されているのがiRulesを使った高度なロードバランシングだ。ネットワンシステムズが開発、実装したiRulesにより、管理対象のサーバに特定のファイルを検知するとロードバランシングの対象から除外される。
「メンテナンスが必要なサーバを、サーバ管理者が自由にサービス対象から除外できるようにしてあります。サーバメンテナンスの度にネットワーク管理部門に設定変更を依頼する必要がなくなり、メンテナンスの自由度を確保できました」
サーバリソースの仮想化が進む中、サーバ管理部門とネットワーク管理部門が分かれるケースは増えているが、そうした状況下でも管理負荷を低く抑えられるのはiRulesのおかげだと杉田氏は語った。
2012年3月1日にスタートしたauスマートパスは、同3月末までに50万ユーザを突破、5月初旬には100万ユーザを突破、順調にユーザの支持を集めている。ユーザの増加傾向を見て、必要に応じてVIPRIONの拡張も行なわれる予定だ。また、サーバ資産が仮想化されているのと同様、ロードバランサの能力も他サービスと共用していくことが検討されているという。
「vCMP機能を使えば、1台のVIPRIONを複数の仮想ロードバランサとして活用できます。設定も管理者も全く分けることができるので、異なるサービスを収めることも可能です。法人向けを含めた他のサービスにも活用することで投資効果をさらに大きくできるのではないかと期待しています」前原氏はそう語り、VIPRIONへの信頼と期待を言葉ににじませた。VIPRIONは、今後のKDDIの成長を多方面で支えることになりそうだ。